大学入学、卒業、入社、転勤―。振り返れば幾度となく引っ越しを繰り返してきた。ほんの数年間であっても、暮らした土地を離れるのは後ろ髪を引かれる思いである。一方で新天地への期待に胸も膨らむ。引っ越しには悲喜こもごものドラマがある。なぜか「あれもやっておけばよかった。これもやっておけばよかった」と反省するのも引っ越しの時だった。
あきた芸術劇場開館準備事務所は5月18日に、約1年8カ月にわたって業務を進めてきた県庁第二庁舎から、千秋明徳町のミルハス館内の管理事務所に引っ越した。机や椅子が運ばれた第二庁舎の事務室内は「こんなに広かったの」と思うほどガランとしていた。開館に向けて、ゼロの状態から小さな石を一つずつ積み上げていくようにして準備を進めてきた。それだけにいろいろな思いが交錯した。
長渕剛さんの初期の楽曲に「二人歩記」という歌がある。一人暮らしに別れを告げ、恋人と新たな生活を始めるという歌である。その中に「最後の荷物を車に詰め込んだら、いろんな思い出が通り過ぎた」との歌詞がある。シチュエーションは違えども、まさに歌詞のような気持ちになった。
管理事務所は総勢36人態勢。6月5日の開館記念式典、翌6日からのホールを除く諸室やロビーなどの一般利用に向けて準備は佳境を迎えている。もう引っ越しの感慨に浸っている時間はない。運んできた荷物の整理と並行して、多種多様な準備、事務作業に追われている。
新しい劇場からどんな物語が紡がれていくのか。主人公は劇場を利用するアーティストであり、オーディエンスの皆さんである。事務所スタッフは裏方として、公演や催事を全力で支えていく覚悟である。
開館に向けたカウントダウンは刻一刻と進んでいる。積み残している課題は残念ながらまだあるが、一つずつクリアして、笑顔で県民、市民の皆さんをお迎えします。